明日を変えるならスポンジから - 一田憲子 -

気になるものごとや時季に応じて読みたい本をゆるーく紹介するまつもとひろい読み。今回ご紹介するのは「明日を変えるならスポンジから」です。松本の5月といえば「クラフトフェアまつもと」。モノを買うということをもう一度考えてみました。

明日を変えるならスポンジから - 一田憲子 -

松本の5月は、「工芸の五月」抜きには語れない。

そもそも柳宗悦の唱えた「民藝運動」にゆかりが深く、工芸がさかんな松本は、毎年5月になるといっそう盛り上がり、暮らしの道具や生活品にまつわるイベントが市内各地で行われる。その中でも、1985年に始まった歴史ある「クラフトフェアまつもと」は、販売されるクラフト作家の作品を求めて約5万人もの来場者が集まる一大イベントだ。私も今年、何か新しい道具を購入したいと意気込んではみたものの、世は断捨離の時代である。ミニマリスト本がベストセラーとなり、モノを持つことより捨てることに注目される今、なにかを買い足そうという行動には、多少の勇気がいる。捨てるべきか買うべきか、減らすべきか増やすべきか。揺らぐ気持ちで手に取ったのが、こちらの本だ。

 

明日を変えるならスポンジから

『明日を変えるならスポンジから』一田憲子

道具はそもそも、それを使うことで暮らしが少し便利になったり、日々がわくわくしたりするものだ。

この本は、道具を制作する作家さんや、パン屋さん、収納のプロなど、モノにまつわる仕事をしている人たちの普段使いの道具を、インタビューを通して紹介している。どれもこれも、その道具を使うまでに紆余曲折があり、使う理由があるモノばかり。
中には、「クラフトフェアまつもと」の発足当時から運営に関わっていた、木工作家の三谷龍二さんのインタビューも収録されている。三谷さんが使う道具は、とにかくシンプル。自作の木の器をはじめ、ジーンズから着火ライター(!)にいたるまで、彼の使う道具は使いやすく、長く使っても飽きのこない美しさを持つ。同じ視点で選ばれた道具たちは、その人の生活になじみ、美しいスタイルを形づくっているように見える。

クラフトフェアまつもと


もちろん人が違えば、選ぶ基準も異なる。パン屋の佐藤彩香さんのお気に入りは、固い柑橘類が簡単にむける便利グッズ「ももやのムッキーちゃん」。こちらは、通っていた料理教室で紹介されからすぐ購入したそう。
シンプルな大人のコートを探していたときも、高額なトレンチコートを通販で即決してしまうなど、佐藤さんはモノとの出会いの機を逃さない。直感で「欲しい」と思いつき、条件にぴったりのモノが見つかった瞬間、「本当にこれかな?」とためらう間もなく判断するというのは、なかなか難しいものである。生活リズムが整っていて、日頃から必要なものがすぐわかっているからこそできる技ではないだろうか。その人の生活リズムにあった道具を購入するというのもまた、良い出会い方のひとつだ。

良い暮らしをするためには、モノを単に増やしたり減らしたりというよりも、それをどう使いたいのか考えることが必要なのだと思う。確かに、便利なモノに囲まれて生活する私たちは、使うかどうか考える前に、つい使わないモノまで買ってしまう傾向にあるかもしれない。でも、毎日必ず使う暮らしの道具は、それを変えるだけで確実に生活も変わる。この本のタイトルにあるスポンジがまさにその一例だ。著者の一田さんは、モノを買うことは「知る」ことと同義だとしている。モノを減らすのは、道具をたくさん使って失敗もし、善し悪しがわかってからでもよいのでは、と提案している。
自分の使いやすい道具との出会いは、いつどこにあるのかわからない。暮らしの道具や生活品が一堂に会するクラフトフェアは、そんな素敵な道具たちとの絶好の出会いの場であることは、間違いない。毎日使うのが楽しみになるモノに出会ったら、今回は臆せず買ってみようと思う。

クラフトフェアまつもと

(退職祝いにもらった、萬古焼の土鍋。コンロをひねるだけで、最高においしいご飯が炊ける。丸いフォルムもお気に入り。)