まるで北欧の山里、ハイジの世界に迷い込んだような中山高原の春

まもなくやってくる信州の春。信州で満開の菜の花が堪能できるスポットがあることをご存知でしょうか?今日はなだらかな丘に広がる菜の花畑の絶景、中山高原をご紹介します。

まるで北欧の山里、ハイジの世界に迷い込んだような中山高原の春

絵画から飛び出した風景。
どこまでも続く黄色い絨毯と真っ青な空。風景を支配する2つの色は、真っ白な北アルプスを境に世界を2つに塗り分けます。

黄色の絨毯に彩りを添えるのは、黄緑の樹木。丘に建つ小屋が、この景色を見るものを北欧の世界へと誘います。

一面黄色の丘を北アルプスに向かって続く小道は、天国に続く道のよう。丘を撫でるように吹く風が、立ち込める菜の花の香りを柔らかくブレンドします。

中山高原の春

こんにちは。県外ライターのこまきです。

信州の春が待ち遠しい季節になりました。雪解けの北アルプスが青空に映える風景は、信州を代表する春の景観の一つです。

その景観にまさに花を添えるのが、春の花たち。今日は松本を少し離れて、大町の中山高原の絶景をご紹介します。

プロローグ

すっかり日が暮れた春の松本。少し冷たくなった風からも春のにおいがします。馴染みのバーの扉を開けると、まだ時間が早いのか客は自分一人。やった、独占だ!

ゆったりとした時間が流れるバーに心を満たすと、マスターに尋ねます。

「このあたりで、菜の花と北アルプスが、きれいなところ、ありますか?」
「んー。安曇野あたりまで行くと、田園風景と菜の花が見られますかね。」
「…実は、安曇野の今日まわってきまして。」

バツが悪そうに応えると、マスターが苦笑しながら教えてくれました。
「では、中山高原はいかがですか?朝ドラのロケ地にもなったところで、満開の季節はすごいですよ。」

中山高原の春

中山高原とは

大町市美麻にある中山高原。大町街道沿いのなだらかな丘が今回ご紹介するスポットです。

高原という割には少し範囲が小さく、森を大きくくりぬいたような不思議なロケーション。それもそのはず。この中山高原はもともとスキー場だったのです。

このスキー場は大町スキー場といい、1927年にオープンした老舗のスキー場でした、しかし、雪不足やスキー人口の減少により2008年に閉鎖に。

その後、中山高原と名を変え、NHK朝の連続ドラマ「おひさま」のロケ地になると大人気に。それでも「中山高原」という地名はそれほどメジャーではなく、穴場に近いスポットになっています。

春の大町へ

松本を出たのは、午前9時頃のこと。今日天気がよいことは、早朝の城山公園展望台で確認済みです。

松本から大町に向かう際は、県道51号を使うのが自分のお約束です。北アルプス好きにとって、建物が多い国道は勿体ない道。一方で県道51号は交通量が少なく、道もまっすぐ。北アルプスの見晴らしがよく、ドライブ向きの道です。

左手に広がる田んぼは、いまが田植えのピーク。水鏡に映る北アルプスが車窓を追いかけます。ふと目線を上げると、爺ヶ岳の雪渓が。…雪渓ってこんなにはっきり見えるものなのか。白いキャンバスに刷られた版画のように、くっきりと種まき爺さんの姿が浮かび上がります。

中山高原の春

(田植えの季節を迎えた大町と爺ヶ岳)

そんな田園風景や北アルプスとも信濃大町でお別れ。大町街道に入ると、道は森の中を進みます。やがて左手の山が切り開かれ、オフロードコースが現れると、その一体が大町スキー場跡地。さらに数百メートル進めば、右手に中山高原の入り口が現れます。

菜の花の丘と農園カフェ

入り口の駐車場は、20台も停めれば一杯のキャパシティ。菜の花は満開のはずですが、満車になる様子はありません。車を停めてカメラ片手に歩道を歩き始めると、行く先にはもう黄色の丘が見え隠れしています。丘からの吹く風は、春の香りが…。

中山高原の春

(中山高原の入り口(駐車場方向))

歩道を進むとすぐに森が開け、両脇にゆるやかな斜面が現れます。元ファミリーゲレンデらしく、斜面というよりはなだらかな丘。正面の菜の花畑は、かなり先まで続いています。両脇の丘に遮られて全貌は見えませんが、かなりの広さであることは確かです。まさかここまでの規模とは思わなかった。

中山高原の春

(いかにもゲレンデ跡らしいなだらかな丘)

しばしその奥行にあっけにとられていると、丘の左手に、山小屋風の建物が建っているのに気が付きます。それは、まるで「大草原の小さな家」といった佇まい。菜の花の丘と調和し、この日本離れした景観を演出しています。

中山高原の春

(小屋と菜の花の丘)

この建物、実は「農園カフェラビット」というカフェ。このカフェは、化学調味料を使わないジビエ料理が味わえる、本格的なレストラン。信州の大自然を目の前に本格ジビエ料理が味わえるなんて、なんという贅沢でしょうか。

どこまでも続く菜の花の丘

このあたりは、スキー場でいうゲレンデ入口にあたるところ。なだらかに斜面が集まる、浅いすり鉢の底のようなロケーションです。正面と左右の丘は、一面の菜の花。目の高さまで菜の花で満たされた光景は、圧巻です。空気が溜まりやすいのか、辺りには鮮烈な菜の花の香りが立ち込めます。

中山高原の春

(丘に囲まれた中山高原)

正面奥には丘と森の境目が見えています。しかし、そこはまだ数100mも先。菜の花畑は、かなりの奥行きがあります。左側は、手前の小高い丘で遮られて見えません。しかし、丘の上は明るく影もないことから、丘の反対側に開けた斜面が続いていることがわかります。

丘の上には数本の白樺の木。そのコントラストの美しさは、しばらく見とれてしまうほど。日差しは暖かく、心地よさがまるで天国のよう…。

まだ入り口から半分も来ていないというのに、この景観に圧倒されている自分に気づきます。埼玉育ちの私は、これほどの規模の菜の花畑をみたことがありません。きっとあの小高い丘には、もっとすばらしい景観が広がっているに違いありません。

中山高原の春

「おひさま」のロケ地

そんな期待を胸に歩道を歩いていると、左手の丘がなだらかに下がって十字路が現れます。やはり丘は続いていました。十字路からは左方向にも広大な菜の花の丘が広がっているのが見えます。いったい、どれくらいの面積を持つのでしょうか。

しばし遠くを眺めていると、目の前に標識のようなものがあるのに気づきます。十字路に建てられた柱に書かれた文字は…。「おひさまロケ地」。なるほど、ここでしたか。

中山高原の春

(「おひさまロケ地」の記念碑)

記憶にあるロケシーンは、丘一面に咲き誇る真っ白な花が印象的でした。たしかあの花は蕎麦の花だったはず。でも、目の前にあるのは菜の花。

実は、中山高原は春と夏別の花が咲きます。春に菜の花、夏に蕎麦。それぞれが丘一面を覆い、幻想的な景観を演出します。朝ドラのシーンも素敵でしたが、黄色に染まると華やかで春らしい雰囲気。ぜひ、2つとも味わってみたいものです。

振り返れば、ハイジの世界

ここまでくれば、丘の終わりまであと少し。十字路を越え、菜の花の道を進みます。スキー場の跡地らしく、一直線に切りそろえられた森と丘の境界線。新緑が目に優しく、菜の花の黄色によく合います。丘の傾斜は緩かで、歩いて負担にならないほど。

数十mほどあるけば、丘の端に到着します。駐車場から500mほどの距離でしたが、この規模の菜の花畑はそうそうありません。ちょっとした達成感に浸りながら、今来た道程を眺めようとゆっくり振り返ります。

…と、その瞬間。驚きの光景が広がります。
百聞は一見にしかず。まずは写真をご覧ください。

中山高原の春

まさか自分の背後に、こんなにも美しい景色が広がっているとは。

遠く、なだらかに続く菜の花の丘。その丘を取り囲む森の上には、白く輝く北アルプスの山々。空は真っ青で、青、白、緑、黄のコントラストが映え渡ります。

小高い丘で見えなかった十字路の裏手には、北アルプスを映す池。開けているとは思いましたが、まさか水場があるとは思いません。

中山高原の春

(池と中山高原)

小高い丘の上には、先ほどの農園カフェ。山小屋風の建物がこの景観によく合います。一言で表すなら、ハイジの世界。こんなメルヘンな世界が、日本の、しかも長野県にあるとは…

まぼろしの池と人気カフェ

予想外の美しさに、放心状態でしばし立ち尽くします。鳥のさえずり、ミツバチの羽音、そよ風に揺れサラサラと音をたてる菜の花…。この風景は、いきものたちの息吹に満たされています。

どれくらい時間が経ったでしょうか。ミツバチの大きな羽音に我に返ると、夢見心地でゆっくり歩き出します。目指すは、まだ近くで見ていない池の奥へ。

中山高原の春

(池を散策する人々)

中山高原の春

(黄色に染まる池の水面)

池に近づくと、水面には映り込んだ美しい菜の花。よく見ると、池の周囲に水が干上がった跡があることに気づきます。小さな池を横目に湖畔を半周すると、現れるのが北欧風の建物。真っ白で可愛らしいこの建物の正体は、カフェでした。

中山高原の春

(ムーミンの家のような美麻珈琲)

ここは美麻珈琲というカフェで、こだわりの自家焙煎コーヒーで有名。実は、大町市のふるさと納税の返礼品にもなっている、人気のカフェなのです。店内は薪ストーブが印象的で、落ち着いた雰囲気。テラス席もあり、菜の花の季節は特等席に。

聞けば、あの池は「幻の池」と呼ばれ、雪解けの季節にだけ現れるとのこと。見られたのは幸運でした。こだわりの焙煎コーヒーを片手に窓の外を見れば、春満開の丘。なんと贅沢なことでしょうか。

儚くも美しいこの景色。ぼんやり窓の外を眺めながら、信州にこんな素敵な季節があることに感謝しつつ、やっぱり少し羨ましく思うのです。

エピローグ

絵画から飛び出した風景、いかがでしたでしょうか。

中山高原の春

間もなくやってくる、信州の春。どちらかといえば、桜にスポットが当たりがちですが、菜の花の丘は春らしく、とても華やかです。

北アルプスと菜の花の競演。ぜひ楽しんでみてくださいね。

 

※菜の花の見頃は例年4月下旬〜5月中旬になります。詳しくは大町のHPをご覧ください。