街並みの中にある人々の生活感が撮影に生きた「おひさま」

映画やドラマで松本市が舞台となっている作品が多数あります。その舞台を追いかける連載「松本巡礼」今回は2011年4月から放送された「おひさま」です。

【編集中】街並みの中にある人々の生活感が撮影に生きた「おひさま」

(画像はNHKアーカイブスよりキャプチャ)

NHKの連続テレビ小説「おひさま」は2011年4月から放送されました。病気の母と最期の時をすごすため、東京から長野県安曇野市へ家族で引っ越してきた主人公、井上真央演じる陽子は、一面の白い蕎麦畑を目にします。女学校を卒業した陽子は、やがて教師となり、松本市の老舗そば店の息子とお見合いをし、嫁いだあとはそば店の女将として成長していきます。
戦前から戦後にかけての女性の生き方、友人や家族の大切さなどを描き、どんなにつらいときも太陽のような笑顔を忘れない陽子の強さは大きな感動を呼びました。

「おひさま」では全編を通して信州地方でロケが行われ、安曇野と松本市がふんだんに紹介されたドラマです。
長野県は、連続テレビ小説の舞台としてたびたびとりあげられていて、1975年の「水色の時」、1993年の「かりん」に引き続き3回目となりました。

放送開始直後、陽子が小学校の遠足に行くシーンで「信濃の国」を歌っていることが話題となりました。
この「信濃の国」は長野県にお住いの方なら、みなさんご存知の県歌です。「信濃の国」について、県民の認知度を調査したところ、なんと8割の方が歌えると答えたそうです。
(参考:長野県庁

これほどまで県歌が浸透している都道府県は、ほかにはありません。信濃地方の地理歴史に関するキーワードが満載の「信濃の国」は、音楽ではなく歴史や郷土の授業で習ったという人も多いようです。
長野県庁では、仕事始めの際に職員が合唱したり、電話の保留音や、議会の合図に「信濃の国」のメロディーが使われたりと、日常の中にも浸透しています。

物語の後半、陽子の嫁いだそば店「丸庵」が昭和25年に大火で焼けるというシーンがあります。松本市は明治時代に大火に見舞われたことがありますが、昭和に入ってからはありません。古くから松本市に住んでいた方は疑問に思われた方も多いようですが、この大火はフィクションのようです。

陽子の兄、須藤春樹が通う松本高校は、「あがたの森公園」にある「旧松本高等学校」で撮影されました。

旧松本高等学校

※画像はwikipediaより
旧松本高等学校は、現在の信州大学の前身となった歴史ある学校です。レトロな雰囲気の後者は、大正時代のつくりのまま。信州大学が旭町キャンパスへ移転した後も、市民や同窓会の強い願いによって保存された校舎は、さまざまな映画やドラマのロケ地としても使われています。
旧高等学校がそのまま残っているのは全国的にも珍しく重要文化財にも指定されています。
あがたの森文化会館施設は、申し込みをすれば誰でも利用することができます。コンサートなどのイベントも定期的に行われているので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。


子ども時代の陽子たちが登った常念岳。標高2,857 mで、松本市と安曇野市にまたがっています。山脈の中でもピラミッド型が目を引く常念岳は、日本百名山にも選ばれ、シーズン中は登山客でにぎわいます。
陽子の成長を見守るように、たびたびドラマ内でも登場する常念岳ですが、実際の登山のシーンは美ヶ原高原王ヶ鼻でロケが行われました。頂上からの大パノラマは山の詩人として有名な尾崎喜八が「世界の天井が抜けたかと思う」と表現しています。松本市の東に広がる美ヶ原は、学校登山で利用されることもあるほど、市民からも親しまれています。

陽子とその友人の育子、真知子たちと、松本へ遊びに行くシーンでは、松本城が登場します。
城内の急な階段は、陽子が初恋の相手、川原に手を取ってもらうシーンでも使われています。
言わずと知れた松本城は、現存する五重六階建ての天守閣では日本最古をほこり、歴史的価値の高い国宝です。数々のドラマや映画にも登場しますが、「おひさま」でも松本市のシンボルとして描かれています。
撮影後の記者会見で、小松チーフプロデューサーは「陽子が初恋をする、兄の友人と初めて出会うシーン。松本城の中を使わせてもらってとてもいいシーンになったと思います」と語っています。

このシーンでは大規模なエキストラ撮影が行われ、地元の大学生や演劇関係者などが参加しました。その様子は広報などでも大きく紹介され、知名度の高いNHKの連続テレビ小説を通して、松本の魅力をアピールしようとロケ地が積極的に宣伝されました。
小松チーフプロデューサーは松本市や安曇野市でロケをした感想を「今も実際に生活している場所をそのまま使って、当時の様子を再現できるところが素晴らしい。」と語っています。
「おひさま」の舞台は昭和7年ごろからはじまります。当時の風景を再現でき、それでいて現代の人々の生活が感じられ、現代に通じているところが、松本がロケ地として選ばれた理由の1つではないかと考えます。

ふだんはあまり気に留めていない風景が、歴史ある街並みだと再認識させてくれるドラマ「おひさま。」ぜひ何気なく歩いている風景にも、目を向けてみてはいかがでしょうか。
先人たちが長年守ってきた思いがたくさん詰まっていると感じながら歩けば、いつも歩く道も違って見えてくるかもしれませんよ。