深志高校の看板犬が感動を呼ぶ「さよなら、クロ」

2003年に監督は松岡錠司さん、そして主演は妻夫木聡さんが務めた、長野県松本深志高校での実話に基づいたストーリーです。

深志高校の看板犬が感動を呼ぶ「さよなら、クロ」

全国各地で、ご当地を代表するコンパニオン・アニマルが人気を集めています。和歌山電鐵の駅長をつとめたネコ「たま」や青森県鰺ヶ沢町の「わさお」などは、雑誌やテレビなどで見たことがある方も多いのではないでしょうか。しかし、いまから30年以上も前、長野県松本市にも、市民から愛される「看板犬」いたのを知っている人はそれほど多くありません。

映画「さよなら、クロ」は松本市深志高校に住み着いた、一匹の黒い犬「クロ」が主人公です。これは実際にあった話が元になっていて、「職員会議に出た犬 クロ」として書籍化もされています。
ある日学校に迷い込んだ犬、クロは昭和35年ごろから松本深志高校に住み着き、なんと12年にもわたって生徒や職員と一緒に学校生活を送ったのです。夜は用務員室で寝泊まりし、昼は教室を見回り職員会議にも出席します。学校の一員として認められ、職員名簿にも名前が載せられていました。クロがなくなったときは、学校葬で校長が弔辞を読み、何千人もの生徒や卒業生、市民が集まったそうです。
実際に現在も、松本深志高校同窓会のHPには
「氏名:クロ
住所:松本深志高等学校校用技師室
役職:番犬」
と記載されていて、多くの人から愛された犬だったことがわかります。

クロ
【参照:深志同窓会

映画はこの看板犬、クロに関わる人々の成長や生き方を描いた作品です。2002年の秋から冬にかけて、松本深志高校を中心にロケが行われましたが、あまりの降雪に雪を解かすのが大変だったそうです。この映画の撮影には、クロが居た当時、松本深志高校に在籍していた生徒や職員が呼ばれ、エキストラとして出演もしています。

映画の舞台となる松本深志高校は、「秋津高校」という名前で登場します。松本駅からは2キロほどの場所にある、県内でも歴史ある伝統校の松本深志高校は、卒業生に政治家や学者が名を連ねるなど、名門としても知られています。
管理棟普通教室棟と講堂は、国の登録有形文化財に指定されていて、その趣ある校舎はNHK連続テレビ小説「ひよっこ」や、「ひるなかの流星」などでもロケ地として利用されました。

妻夫木聡演じる主人公、亮介たちが通っていた映画館「セントラル座」は、松本市内にあった映画館「東宝セントラル」で撮影されました。古くから松本市に住む方の中には「懐かしい」と思われる方もいるのではないでしょうか。1927年に開業した芝居小屋を前身に、なんと77年間も営業していた老舗の映画館です。周辺の路地や、駐車場でも撮影が行われ、映画を観終わったあとのシーンなどに利用されています。
東宝セントラルは残念ながら、ロケ終了後に閉館が決まり、その後は隣接していた「信州会館」という旅館とともに解体されました。跡地には現在老人福祉施設が建っていて、その名残を見ることはできません。

亮介が卒業し、10年後のシーンで登場するラーメン店は「まんぼう食堂」です。松本市里山辺の県道沿いにあるこのラーメン屋は現在も実在し、名前もそのままです。まるで昭和にタイムスリップしたかのようなノスタルジックな外観が監督の目に留まり、ロケ地として使用することになったのだそうです。
「まんぼう」というユニークな店名は、同じく松本市が舞台となった北杜夫の『どくとるマンボウ青春記』からとられたもの。映画ではラーメン店として登場しますが、実際はラーメンだけでなく、かつ丼やカレーなどと言ったメニューもあり、現在も地元の人から親しまれている食堂です。

ほかには、あがたの森文化会館や正麟寺、ウエストンホテルなど、市内各所がロケ地として使用されました。ほぼ全編が松本市、または近郊で撮影されているので、映画を見ていると「この場所見たことがある!」という場所が、きっとあるはずです。

クロの物語を映像にしたのは、「東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜」や「深夜食堂」でも知られる松岡錠司監督。松岡監督と主演の妻夫木聡さんは、松本市を訪れた際「自分が思っていたより(撮影した松本市が)都会だったので、ちょっとビックリした」と語っています。映画の中に昭和の時代を再現するために、あちこち足を運び、ロケ地にふさわしい場所を選んだそうです。

この映画は、決してクロの生涯を追った動物映画ではありません。クロを取り巻く人々の姿を追い、クロを通した心の触れ合いがしっかりと描かれていて、青春映画としてもとても素晴らしい作品に仕上がっています。クロとともに喜び、悲しみ、葛藤し、そして大人へと成長していく少年少女たちの姿に、心が温かくなる映画です。

映画はフィクションではありますが、現実にこうした話があった、という事実がさらに深い感動を呼びます。松本深志高校の生徒の優しさや、その姿を優しく見守る職員の姿があったからこそ、この物語が生まれたのです。そして、それを再現できるロケーションがあったことが、松本市での撮影につながりました。「さよなら、クロ」はまさに「オール松本市」の映画です。松本市に住む方には、ぜひ見て欲しい1本です。

 

この記事で紹介したスポット

松本深志高校
住所:長野県松本市蟻ケ崎 3-8-1

 

東宝セントラル(閉館)

 

まんぼう食堂
住所:長野県 松本市 里山辺 荒町3233-4